以下に第28回口頭弁論・原告意見陳述をご紹介します。
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2026 年2月17日
意 見 陳 述 書
改めて大深度法の違憲性を訴えます
合憲なら説明を、説明できないならすぐ廃止を
原告のMです。私がこの法廷で意見陳述するのは、多分5回目ではないかと思いますが、今回は、改めて、私たちの中心的な主張である「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度地下法)が憲法29条、13条、25条に違反している状況について事実と、昨年秋行われた「事業評価監視委員会」について、事業を公正に進めるための制度すら崩壊し、踏みにじられている状況を報告し、糾弾したいと考えます。
なお、時間の制約がありますので、法廷では、要旨を述べることにとどめます。
1:現況
私が住んでいた調布市東つつじヶ丘2丁目の家は、既に跡形もなく壊され、工事用の道路になってしまっています。周辺の家を含めて、第一種住居専用地域だった辺り一帯は、陥没した場所を中心に白い塀に囲まれ、工場地帯のようになってしまい、この街がこれからどうなるかの計画はなく、残された住居に住む住民の不安は、全く解消されていません。
開発によって、長年住んでいた家から離れ、いなくなった住民は、少なくありませんが、事業者は、その条件について、住民個人と話しても組織との話し合いはしない、協定もしない、基準も内容も明らかにしないまま、個人取引で、数10軒の住宅がバラバラに奪われてしまうという例は、ほとんどないと思います。
この状況は、引っ越しを余儀なくされた住民だけでなく、広くこの地域の住民の「安全に、健康で文化的で、平穏な生活を営む権利」を保障した憲法25条と、それを求め、よりよき環境を求める憲法13条に反する状況だと思います。
実は、私はこの1年間に、同じ大深度地下法によって、地表の漏水が起きた東京・町田市や品川区、そしてさらに、北陸新幹線の計画が進んでいる京都府京田辺市の住民団体に招かれ「調布の経験」を報告するよう求められてきました。
わかったことは、「調布の陥没」は予想以上に広く知られていて、住民はそれに対してどうしたか、特に、憲法違反の主張について事業者はどう言っているのか、ということでした。
「そんな状況なのに、事業者はなぜ止めないのか」「明白な憲法違反なのに、国はなぜこれを止めないのか」というのは、私への質問ですが、実は「事業者」と「国」、そして裁判所への質問です。
私はここで、大深度地下法を抱える全国の住民が持っている共通の疑問と、特に最近痛感している事業者の住民無視、事業そのもに対する投げやりな姿勢について報告し、事業者に猛省を促すとともに、裁判所に、改めて大深度地下法の違憲性を訴え、承認、認可の取り消しという私たちのごく当たり前の要求に応えていただくよう求めるものです。
2:所有権についての疑問:
私がまず最初に指摘したいのは、所有権についての問題です。
日本国憲法29条は「財産権は、これを侵してはならない」と規定し、財産権とは、所有権などの物権、債権、知的財産権など、金銭的価値があるものすべてが含まれるとされています。
そして、大深度地下法は、「大深度地下の使用に関し、その要件、手続きについて特別の措置を講ずることにより、当該事業の円滑な遂行と大深度地下の適正かつ合理的な利用を図ることを目的とする」(第1条)としていますが、その対象となる「大深度地下」の所有権について何の規定も設けていません。
最高裁は憲法29条について、「私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障したもの」(昭和62年4月22日、森林法共有隣分割制限事件判決)とし、第2項の「公共の福祉」による規制が「是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限されるべき財産権の種類、性質、及び制限の程度を比較考量して判断すべきもの」(平成14年2月13日、証券取引法についての判決)としています。
従って、土地所有権は、まず、「土地所有権は上下に及ぶ」(207条)とする所有権の一般的な規定が適用され、建物が載った敷地のほか、それを支えている土壌、地下水脈等も、当然、所有権者の所有に属するものだと考えられます。
民法206条には、土地所有権について「法律の範囲内においてその土地を自由に使用・収益・処分できる権利」だとしていますが、「臨時措置法」である「大深度地下法」が、憲法上の基本的権利を制限する法律だと考えるのは、著しく妥当性を欠くでしょう。
さらに、「大深度地下法は、土地所有権を制限しておらず、ただ使用権を設定したものだ」という主張がありますが、使用権であれば、当然、所有権者の承認、許諾、契約が必要であり、その内容、範囲、期間などは正確に規定されなければならないと思います。
事業者は「大深度地下法が、なぜ憲法が規定する「財産権不可侵」と抵触していないのか、被告はそれを積極的に明らかにする義務と責任があるのだと思います。
また、事実関係として、事業者は、先述した通り、建物の敷地である土地のほか、それを支える土壌などを奪っています。
これは明らかに憲法が規定する「財産」の強奪であり、許されることではありません。
また同時に、憲法13条は、人格権、個人の尊厳と幸福追求権を規定し、「自己の情報は自己が管理すべきだ」とする「自己情報管理権」を認める動きも広がっています。
しかし、大深度地下法は地上の土地所有権者に掘削について了解を一切とらず、工事を進めています。
自己の所有する土地やその土壌について、その情報を知ることは、「自己情報管理権」から当然であり、これを知らせないまま、工事を進め、土を運び出し、土地に工作を加えることは、窃盗行為であり、重大な基本的人権の侵害であることも指摘しておきます。
3:これで「公共の福祉」と言えるのか:
憲法29条は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」とありますが、大深度地下法は、土地所有権を事実上侵奪していることについて、何の規定もしていません。
法的規定がないのですから、所有権が制限されているわけではないと思います。
そして、この法律がうたっている「公共の福祉」について、事業者は「環状8号線の渋滞を緩和し、通過時間の短縮をもたらす」と言っていますが、この便益、効果は、いま出ている住民への甚大な被害を解消するものではありません。
住宅街を破壊し、住民の人権を侵害して、どんな福祉が生まれるのでしょうか?
道路の必要性、道路事情の変化などは繰り返しませんが、住民の被害と比較考量した場合、この建設や工事の方に価値があるとは思えません。
後述の「事業評価監視委員会」は、この公共性を担保するためのものだったはずです。
しかるに、その実態の退廃ぶりは、東京外環道事業がもう限界にきていることを示しています。
4:補償規定が一切決められていない法律が「補償」を規定する憲法に抵触しないのか
また、憲法29条は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と規定し、利用の際の「補償」を規定しています。
しかし、大深度法は、これを無視し何の規定もないまま、認可、承認が行われ、工事が進められています。しかも、この法を主管し、実際に事業官庁の当時の国土庁大都市圏整備局長・板倉英則氏は、土地利用には「1人1人の地権者との合意が前提」だが、それには「非常に手間ひまがかかる」。
しかし、この法律(土地所有者の了解を必要としない大深度地下法)の成立で、スムースな利用ができる、との趣旨を臆面もなく語っています。(政府広報誌『時の動き』2000年7月号)。
そして国や事業者は、大深度地下を「地権者による通常の利用が見込まれない空間」と勝手に決め、「事前の補償手続きは不要」としています。
通常利用されないところであっても、現実に所有者がおり、所有権者がいます。
それなのに、事前の了解がないまま、これを勝手に「通常の利用が見込まれない空間」とするのは、明確な憲法29条違反です。
「通常の利用が見込まれない空間」という規定は、「地上には影響を与えない」という嘘の宣伝とともに一人歩きし、これが、問題を大きくしています。
5:仮処分決定を「肩すかし」する事業者:
外環道の工事差し止めを求めた仮処分裁判(東京地裁令和2年(ヨ)第1542号東京外環道気泡シールドトンネル工事差し止め仮処分命令申し立て事件)で、私は2022年2月、「有効な対策がとられないまま、気泡シールド工法で本件工事が再開されれば、(中略)居住場所に地盤の緩みを発生させ、地表面に陥没を生じさたり地中に空洞を生じさせたりする具体的な恐れがあると言わざるをえない」とされ、「人格権に基づく妨害予防請求権としての差止請求権」が認められました。その結果、外環道トンネルの工事は、本線工事の南側約半分について、陥没時から数えて既に5年間、停止したままになっています。
事業者は、この裁判の中で、問題の焦点になった私の生活、「近接した場所に住む住民の生命・健康・財産についての危険性」については、すべて認容し、全く異議を申し立てませんでした。
とすれば、これを是正するため、何らかの手立てをとるか、対象とされた私に対して、何かの申し出があって当然ですが、一切申し出はありませんでした。
私は現場事業者を通じて2回にわたり「この判断にどう対応するのか」と斉藤鉄夫国土交通大臣に質問状を提出しましたが、一切お答えを頂けませんでした。
ところが、事業者が、そこで実施したのは、陥没地域周辺の地盤補修の大工事でした。
つまり、問題を陥没事故に矮小化し、問題になった「住民の人権」についてはその「侵害」を認めたまま、裁判所が停止した以外の場所の工事を実施するという行動です。
普通、裁判所が一部の工事について差し止めを決めるとすれば、一部についてだけ問題があったのではなく、その事業全体についても問題がありうることを想定したものであり、訴訟当事者の対応を促すものだと思われます。
ところが、本件の場合、事業者は「関係者と検討する」としただけ、、禁止されたマシンは地中に埋めたままで、再開のための事業の見直し、危険があるとされた私には何の回答もないまま、検討は一際せず、ただ陥没地域周辺の地盤強化の大工事をしてます。
裁判所の小さな指摘であっても、事業全体の見直しをしない事業者の姿勢は、請求人に対してばかりでなく、裁判所、つまり司法に対する侮辱ではないかと考えます。
6:認可を受けていない事業者の工事
2020年の陥没事故は東日本高速道路の施工中で起きましたが、実はこの場所は中日本高速道路会社が施行することで認可を受けた地域でした。
この仮処分裁判のなかで、これを指摘しました。
裁判所は、このことには直接言及せず、「本件工事に認可を受けていない事業者が行った違法があるかどうかを検討するまでもなく(略)工事には差止を認めるのを相当とする違法性が認められる」と判断しました。
しかし、誰に対して、どんな条件の下で、工事の承認、認可を与えるかは、大深度地下法の最も基本的な問題であり、私は、本件訴訟では、明確に認可、許可の主体が決められているわけですから、大深度法で認可を受けていない場所の工事を、関連会社であれ実施し、事故を起こしてしまったとすれば、直ちにこれを取り消す決定をしなければならないのではないかと考えます。
このことを裁判所が容認するとすれば、一定の知識を持った業者は誰でも、許認可を受けたふりをして、掘削しても構わないことになります。これでいいのでしょうか?
7:「事業再評価」とは何か
今回の意見陳述の中で、私たちが新しく問題にしたいのは、昨年10月行われた、国土交通省関東地方整備局の公共事業評価監視委員会で、東京外環道事業について、事業の継続が承認されたことです。
事業監査制度は、公共事業について無駄遣いをなくし、国民の経済的負担を軽減するための制度です。
前回は、2020年で陥没事故の前に行われており、既に、事業費は2兆3 575億円になっており、費用対効果(B/C)は、1.01でした。
その後、住民に騒音、振動、低周波障害などの健康被害やひび割れ、傾きなど多くの住宅被害が明らかになり、さらに陥没事故で、結局40〜50戸に達する住宅買い取り―解体―撤去―更地化―地盤補修という「街壊し」の大工事が行われています。
従って、今回の「事業見直し」ではこれが反映され、まさに「事業の見直し」が行われることが期待されていました。
ところが、今回の「評価」では、事業費は陥没関連の大工事の費用は入れないままで、費用は 2兆7625億円と増加した反面、時間短縮効果を関東一円の道路や運転手の賃上げまで膨らませ、完成・供用予定を2031年とするなど、費用は減らしたり頬被りし、便益は水増し過大評価して、B/C=1.2というごまかしの数字をはじき出しています。
さらに委員会は、前回、付帯意見とした@早期の完成と供用に努めるAコスト縮減、事業費増の要因分析と厳格なコスト管理B事業進捗について関係自治体との情報共有、透明性を高めるC社会一般へのわかりやすい情報発信―という4項目に「対応されている」とし、これをそのまま了承。
事故や住民に対しては一言も触れないまま、事業継続を承認しました。
私は、被害者の1人として、委員あての要望を送りましたが、何の回答もありません。
「公共事業評価監視委員会」は事業の継続が適当でない場合には、事業の継続を認めないこともあり得るとされる組織です。
しかし、少なくとも今回の結論は、住民に対する視野を欠いた点だけでも「事業推進非監視委員会」と揶揄されても仕方がない状況でした。
今回の審議には、事業の関係者が含まれ、現場の状況をご存じない有識者が任命されていましたが、委員は、それぞれの専門分野で業績を上げている方々です。
今回の審議と結論は、国と事業者が一体になって、この「事業評価監視制度」を悪用し、コンプライアンスを守ること自体を形骸化するものであり、不誠実極まりない姿勢です。
8:裁判所への「期待」
私はもともと、ジャーナリストです。早稲田大学法学部を出て、通信社で働き、のちに関東学院大学、中央大学等で、ジャーナリスム、マスコミュニケーションを講じ、現在も研究活動を続けています。
東京外環道は、私自身の住宅のわずか30aの地下を通り、約30bの場所で陥没が起き、数bの所で第2の空洞が発見され、単なる取材者ではなく被害者になりました。
NEXC Oの担当者はこの住宅について、「お宅は安全です」と繰り返しましたが、東京地裁の仮処分判決は、「(このまま工事が進むと、私の)生命、身体に対する具体的な危険が生じる恐れがあり、その被害は日常生活を根底から覆すものであると言える」と判断しました。
私としては、約45年住み、妻の両親を看取り、子供たちを育てた家を明け渡すのは極めて不本意でしたが、実は、老後の生活のためのリバースモーゲージの借り入れについて「この土地、建物は担保にできない」と銀行に否認され、新しい担保物件が必要で、転居しました。
「札束で頬をひっぱたかれた」と評する方がいますが、80歳を過ぎてからの引っ越しは大変な負担で、夫婦2人体調を崩し、まだ本調子ではない感じでいます。
私は、法律を学んだ1人のジャーナリストとして、裁判所にお願いしたいのですが、裁判所は あくまで、日本国憲法のごく普通の国民の人権感覚に沿って判断を示してほしいということです。
憲法に決められている「人格権」とか「幸福追求権」とか、「健康で文化的な最低限度の生活」といった基本的人権の内容は、裁判所が判断しないと実現しないことが少なくありません。
私たちは、憲法学者が常に言う「憲法を暮らしに生かす」というごく単純な発想から自分たちの権利に目覚め、私たちの周辺で起きている出来事が憲法に照らしておかしいのではないか、と訴訟に踏み切りました。
私が今回ここで述べた、いくつかの基本的人権についての要求は、裁判以前に、とっくの昔に実現されていなければならない、というのが「法の精神」だと思います。
所有権にしても、人格権、あるいは平穏生活権にしても、裁判所がひとつひとつ、勇気を持って、規定しなければ確定しません。
私はこれを機会に、当裁判所が、住民の基本的人権に言及し、大深度地下法が憲法違反であることを認め、東京外環道の承認認可を取り消す判断をされ、日本に憲法が生きていることを確認させていただくよう、改めて期待するものです。
(了)
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推薦:浜 矩子(同志社大学教授) あけび書房
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