以下にその意見陳述をご紹介します。
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2023 年9月 5 日
「新たな人権侵害」と「街壊し」:第20 回口頭弁論・原告の訴え
原告のMです。最初に、調布市の外環陥没地域の住民のメールを紹介します。
「食器を洗っていたら、アスファルトを削る音と、写真でみえる赤い物の音で、心臓がザワザワしてきた。と、思ったら平衡感覚がない。『めまい』が襲い、頭が締め付けられるようになり、その上、家がドスンドスンと揺れ始めました。 とても怖い」―8月はじめ、地盤補修工事の作業が始まったころ、近所の住民が、被害者の会に報告したメールです。
そして数日後のメール。「ドスンドスンも相変わらずしています。物凄い大きい時は、家も下から突き上げられるような感じ。管路の中もシャーシャー流れる音がかなり目立ちます。きょうは、犬も落ち着きません」―。
幸い彼女は大事には至らなかったのですが、こうした状況は何度も続き、確実に住民の健康を傷つけ、寿命を縮めています。最近では取り壊しが決まった住宅のすぐ近くに住んでいられた独り暮らしの女性が、孤独死しているのが見つかりました。
私は、前回の弁論の陳述で、問題の陥没現場周辺で、「新しい形の人権侵害・被害」が出ていることを、報告しましたが、この状況はさらに続き、広がっています。特に、8月初めから、地盤補修工事と称するおよそ住宅街では見られない大工事が始まる中で、静かだった住居専用の住宅街は、どこかの工場街の建設現場そのものに変わりました。
しかし、これは、「大深度地下法」の成り立ちからはもちろん、この事業の「認可・承認」の際にも、全く考慮されなかった事態が、事業者のいい加減な姿勢と工事によって発生し、どんな審査もないまま、巨額の費用と、金銭に換えられない被害が発生しているということです。
裁判官にはぜひ現場に来て、この状況を見分し、問題の違憲性・違法性を実感してください。
時間が限られているので、別紙の写真を用いて「新たな人権侵害」と「街壊し」を順次説明します。
まず、どこで起きていることか、ということですが、この地図を見てください(別紙1)。
外環ルートに沿って中央を南北(地図の左右)に入間川が流れ、西(上方)は調布市東つつじケ丘、東(下方)は若葉町、北(右方)に京王線、甲州街道があります。まさに住宅街を縦断する形で外環トンネルが造られています。

16kmの南側半分の区間の工事差止仮処分決定で、シールド機は2個所で止まっていますが、問題の「街壊し」はこの陥没・空洞の周辺の緩んだ地盤補修工事を長さ約220m、幅16mの区間について、約30軒の家屋を解体して更地にして行うことで起きています。
地盤補修は甲州街道北側の三鷹市に隣接した「プラント・ヤード」(別紙2)から始まります。

ここに何台ものコンクリートミキサー車が入って、このサイロに入れたセメント粉と水をミキサーで混ぜ、できたセメント・スラリーをコンプレッサーで高圧をかけてパイプラインで流します。大きな騒音と振動がします。また、地盤補修箇所から逆に戻されてきた排泥が運び出されます。
甲州街道の地下を通り(別紙3)、

東つつじヶ丘の住宅が両岸に迫る入間川の上を通ります。(別紙4)

そして、京王線の地下を通って(別紙5)、

「中継ヤード1」(別紙6)を超えていきます。

そして中継ヤード2へ延びています(別紙7)。

街の真ん中を約400メートルのパイプラインでコンクリートを流す工事は、類例がありません。
パイプラインは6本あります。セメントスラリーを流すやや細いパイプと、逆にスラリー注入後、排泥を戻す太いパイプがあるためです。パイプの中でスラリーを流す圧力は、25気圧程度です。パイプが途中で詰まったり、外れたりして暴発したりしないか、地震のとき、パイプが落ちないか、外れたりずれたりしないか、心配です。
こうして流して来たセメントスラリーを、中継ヤード2から地盤補修箇所で最終的に地中に注入するときは、超高圧380気圧(タイタニック号が眠る深海3800m相当)と言われています。クレーンで高くつりさげた注入口から地下に入れて超高圧で噴射し、周辺を崩してセメントスラリーと混ぜて固めていくのだそうです。問題はこの圧力をかけてセメントを流す音と振動、穴を空けるドーンドーンという音、超高圧噴射のゴーッという地鳴りのような音が断続的に続くことです。
合わせて一方では住宅壊しが進行しています。陥没があった生活道路の4軒の家は壊されました。

陥没穴(別紙8)の前の家も、その隣も、裏も壊されています(別紙9)。

解体中の家は黒い布で覆われ、白い壁で囲われます。この区間、幅16メートル長さ220メートルのトンネル直上の家は次々と解体作業に入りました(別紙10)。

街は虫食い状態で、ゴミ収集車も停車位置を減らしています。
いま「入間川ぶんぶん公園」を占拠した「中継ヤード2」は、大きな機材でいっぱいになっています。大きな振動・騒音を発生させる超高圧ポンプと高圧コンプレッサーは防音のための小屋で覆われています(別紙11)。

この中継ヤード2の隣接地の集合住宅を解体した更地の地盤補修マシンも騒音、振動を発生させています(別紙12)。

特に目立つのはクレーンで、風があるときは止める、といっていますが、隣接する住居の住民はその転倒が心配です(別紙13)。

パイプラインは、中継ヤード2から陥没現場方面には、川の脇の細道を通って、南の方に進むそうですが、パイプは樹脂製で、上を覆うと言われていますが、流れるのは380気圧の圧力で流れるセメントスラリー、その上は子どもたちも通る河川敷の道なので、ここも心配です(別紙14)。

陥没現場の先から、入間川ぶんぶん公園に向かう入間川の周辺は、既に工事ヤード予定地とされた川の東側の若葉町での住宅解体が始まり、若葉町側は、北行トンネル直上であるか否かを問わず、一部で解体が始まりました。
陥没からまもなく3年、直上の住宅は壊されて人々は追い出され、地域コミュニティはずたずたに引き裂かれ、周辺の住宅地は騒音・振動・低周波音、工事車両等に悩まされています。この状態がこれから約2年間続く予定です。「地上に影響が及ばない」という大深度地下工事によって!
裁判長によく考えて頂きたいことは、どうしてこんなことが起きたか、です。大深度地下開発の危険性については、当時から指摘されていました。しかし、大深度地下法ができたことで、国も事業者も、所有権を認めた憲法の原則や、地権者の権利を明記した民法も無視して、安易に政策と路線を決定し、十分な調査もないまま、承認、認可手続きを取って、ずさんに工事を進めた結果、この事態が生じたのです。その結果、陥没と空洞ができ、住民の基本的人権を侵害するに至りました。
「安全で平穏に生活する権利」は、憲法13条、25条で認められつつある法理です。さらに、被害を拡大する無駄な大工事をしなければならなくなった間違いは明らかです。被災者は、一切知らされることがないまま、その被害だけを受けているのが現状です。この法的責任は、上げて国と事業者にあります。
こんなことは、おかしいじゃないの? この状況を知った普通の国民はそう反応します。私はごく当たり前の一般国民のひとりとして、裁判所はこうした人権侵害の事態を放置してはならないと信じます。間違っていることは、間違っていると、裁判所が指摘しないで、誰ができるのでしょうか。裁判所にはそれを指摘し、正していく責任があるのだと思います。
私は裁判所に、司法の権威を守るためにも、早急に大深度地下法の違憲・違法性を認め、事業の認可・承認手続きの無効を宣言して頂くよう改めて求めるものです。
以上
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