2023年09月09日

「原告の陳述」東京外環道訴訟第20回口頭弁論(2023年9月5日)

東京外環道訴訟の第20回口頭弁論が、2023年9月5日東京地裁103号法廷で開かれ、原告Mさんが意見陳述を行いました。
 以下にその意見陳述をご紹介します。
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2023 年9月 5 日

「新たな人権侵害」と「街壊し」:第20 回口頭弁論・原告の訴え
 
 原告のMです。最初に、調布市の外環陥没地域の住民のメールを紹介します。

 「食器を洗っていたら、アスファルトを削る音と、写真でみえる赤い物の音で、心臓がザワザワしてきた。と、思ったら平衡感覚がない。『めまい』が襲い、頭が締め付けられるようになり、その上、家がドスンドスンと揺れ始めました。 とても怖い」―8月はじめ、地盤補修工事の作業が始まったころ、近所の住民が、被害者の会に報告したメールです。
 そして数日後のメール。「ドスンドスンも相変わらずしています。物凄い大きい時は、家も下から突き上げられるような感じ。管路の中もシャーシャー流れる音がかなり目立ちます。きょうは、犬も落ち着きません」―。

 幸い彼女は大事には至らなかったのですが、こうした状況は何度も続き、確実に住民の健康を傷つけ、寿命を縮めています。最近では取り壊しが決まった住宅のすぐ近くに住んでいられた独り暮らしの女性が、孤独死しているのが見つかりました。

 私は、前回の弁論の陳述で、問題の陥没現場周辺で、「新しい形の人権侵害・被害」が出ていることを、報告しましたが、この状況はさらに続き、広がっています。特に、8月初めから、地盤補修工事と称するおよそ住宅街では見られない大工事が始まる中で、静かだった住居専用の住宅街は、どこかの工場街の建設現場そのものに変わりました。

 しかし、これは、「大深度地下法」の成り立ちからはもちろん、この事業の「認可・承認」の際にも、全く考慮されなかった事態が、事業者のいい加減な姿勢と工事によって発生し、どんな審査もないまま、巨額の費用と、金銭に換えられない被害が発生しているということです。

 裁判官にはぜひ現場に来て、この状況を見分し、問題の違憲性・違法性を実感してください。

 時間が限られているので、別紙の写真を用いて「新たな人権侵害」と「街壊し」を順次説明します。
 まず、どこで起きていることか、ということですが、この地図を見てください(別紙1)。

 外環ルートに沿って中央を南北(地図の左右)に入間川が流れ、西(上方)は調布市東つつじケ丘、東(下方)は若葉町、北(右方)に京王線、甲州街道があります。まさに住宅街を縦断する形で外環トンネルが造られています。
Photo-1_Maps1.7M.jpg

 16kmの南側半分の区間の工事差止仮処分決定で、シールド機は2個所で止まっていますが、問題の「街壊し」はこの陥没・空洞の周辺の緩んだ地盤補修工事を長さ約220m、幅16mの区間について、約30軒の家屋を解体して更地にして行うことで起きています。

 地盤補修は甲州街道北側の三鷹市に隣接した「プラント・ヤード」(別紙2)から始まります。
Photo-2_PlantYard.jpg

 ここに何台ものコンクリートミキサー車が入って、このサイロに入れたセメント粉と水をミキサーで混ぜ、できたセメント・スラリーをコンプレッサーで高圧をかけてパイプラインで流します。大きな騒音と振動がします。また、地盤補修箇所から逆に戻されてきた排泥が運び出されます。

甲州街道の地下を通り(別紙3)、
Photo-3_PipelineAlongR20SouthWall.jpg

東つつじヶ丘の住宅が両岸に迫る入間川の上を通ります。(別紙4
Photo-4_PipelineAtIrimaRiverUpstreem.jpg

そして、京王線の地下を通って(別紙5)、
Phot-5_PipelineAtKeio-LIneNorth.jpg

「中継ヤード1」(別紙6)を超えていきます。
Photo-6_PipelineAndMidYard1.jpg

そして中継ヤード2へ延びています(別紙7)。
Photo-7_PiplineBtwnYard1and2.jpg

街の真ん中を約400メートルのパイプラインでコンクリートを流す工事は、類例がありません。
 パイプラインは6本あります。セメントスラリーを流すやや細いパイプと、逆にスラリー注入後、排泥を戻す太いパイプがあるためです。パイプの中でスラリーを流す圧力は、25気圧程度です。パイプが途中で詰まったり、外れたりして暴発したりしないか、地震のとき、パイプが落ちないか、外れたりずれたりしないか、心配です。

こうして流して来たセメントスラリーを、中継ヤード2から地盤補修箇所で最終的に地中に注入するときは、超高圧380気圧(タイタニック号が眠る深海3800m相当)と言われています。クレーンで高くつりさげた注入口から地下に入れて超高圧で噴射し、周辺を崩してセメントスラリーと混ぜて固めていくのだそうです。問題はこの圧力をかけてセメントを流す音と振動、穴を空けるドーンドーンという音、超高圧噴射のゴーッという地鳴りのような音が断続的に続くことです。

 合わせて一方では住宅壊しが進行しています。陥没があった生活道路の4軒の家は壊されました。
Photo8_20201018-Kanbotsu.jpg

陥没穴(別紙8)の前の家も、その隣も、裏も壊されています(別紙9)。
Photo-9_Kaokukaitai.jpg

解体中の家は黒い布で覆われ、白い壁で囲われます。この区間、幅16メートル長さ220メートルのトンネル直上の家は次々と解体作業に入りました(別紙10)。
Photo-10_KaitaiKouji.jpg

街は虫食い状態で、ゴミ収集車も停車位置を減らしています。

いま「入間川ぶんぶん公園」を占拠した「中継ヤード2」は、大きな機材でいっぱいになっています。大きな振動・騒音を発生させる超高圧ポンプと高圧コンプレッサーは防音のための小屋で覆われています(別紙11)。
Photo-11_KaokuKaitai.jpg

この中継ヤード2の隣接地の集合住宅を解体した更地の地盤補修マシンも騒音、振動を発生させています(別紙12)。
Photo-12_ZibanHoshu.jpg

特に目立つのはクレーンで、風があるときは止める、といっていますが、隣接する住居の住民はその転倒が心配です(別紙13)。
Photo-13_ZibanHosyu2.jpg

 パイプラインは、中継ヤード2から陥没現場方面には、川の脇の細道を通って、南の方に進むそうですが、パイプは樹脂製で、上を覆うと言われていますが、流れるのは380気圧の圧力で流れるセメントスラリー、その上は子どもたちも通る河川敷の道なので、ここも心配です(別紙14)。
Photo-14_SidestreetOfIrima.river.jpg

 陥没現場の先から、入間川ぶんぶん公園に向かう入間川の周辺は、既に工事ヤード予定地とされた川の東側の若葉町での住宅解体が始まり、若葉町側は、北行トンネル直上であるか否かを問わず、一部で解体が始まりました。
  陥没からまもなく3年、直上の住宅は壊されて人々は追い出され、地域コミュニティはずたずたに引き裂かれ、周辺の住宅地は騒音・振動・低周波音、工事車両等に悩まされています。この状態がこれから約2年間続く予定です。「地上に影響が及ばない」という大深度地下工事によって!
 
裁判長によく考えて頂きたいことは、どうしてこんなことが起きたか、です。大深度地下開発の危険性については、当時から指摘されていました。しかし、大深度地下法ができたことで、国も事業者も、所有権を認めた憲法の原則や、地権者の権利を明記した民法も無視して、安易に政策と路線を決定し、十分な調査もないまま、承認、認可手続きを取って、ずさんに工事を進めた結果、この事態が生じたのです。その結果、陥没と空洞ができ、住民の基本的人権を侵害するに至りました。
 「安全で平穏に生活する権利」は、憲法13条、25条で認められつつある法理です。さらに、被害を拡大する無駄な大工事をしなければならなくなった間違いは明らかです。被災者は、一切知らされることがないまま、その被害だけを受けているのが現状です。この法的責任は、上げて国と事業者にあります。

 こんなことは、おかしいじゃないの? この状況を知った普通の国民はそう反応します。私はごく当たり前の一般国民のひとりとして、裁判所はこうした人権侵害の事態を放置してはならないと信じます。間違っていることは、間違っていると、裁判所が指摘しないで、誰ができるのでしょうか。裁判所にはそれを指摘し、正していく責任があるのだと思います。
 私は裁判所に、司法の権威を守るためにも、早急に大深度地下法の違憲・違法性を認め、事業の認可・承認手続きの無効を宣言して頂くよう改めて求めるものです。

                                   以上

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2023年07月12日

[原告団声明] 東京外環道工事差し止め仮処分について最高裁の上告棄却に抗議します!

東京外環道訴訟原告団は、差止決定区間以外について、最高裁判所が2023年7月7日付けで工事差止仮処分の特別抗告の棄却を決定したことについて、7月12日抗議声明を発表しました。
この間、原告団は、2023年3月24日東京高裁が工事差止仮処分の抗告を棄却する決定をしたことを受けて、4月3日に最高裁に特別抗告を行い、最高裁においては、国民が受けている人権侵害を救済する立場に立ち、違法・違憲の大深度地下シールドマシン掘削について、全面的な停止命令を発することを求めていました。
なお、一部区間(東名JCTからの南側の約9km区間)における差止決定は継続しています。

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2023年7月12日
東京外環道工事差し止め仮処分について最高裁の上告棄却に抗議します!
東京外環道訴訟原告団

 最高裁第3小法廷(今崎幸彦裁判長)は、私たちが提起していた東京外環道シールドトンネル工事の差し止めを求めた仮処分申請について、2023年7月7日、特別抗告を棄却した、と通告してきました。私たちは、この決定に抗議し、裁判所がわれわれの三権分立の憲法の下で、行政に対する最終審査機関として正常に機能するよう、改めて求めるものです。

 私たちの訴えは、大深度地下の掘削工事について、一部差し止めを認めた東京地裁の決定について、同様の地域で、同様の立場にいる一部差止区間以外の原告についても差し止めを認めないのは、どう見ても不合理で、憲法に違反している、というものでした。
 つまり、仮処分決定は、杜撰なトンネル工事による2020年の陥没事故の近隣の原告1人について、「東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事を続行することによってその居住場所に陥没や空洞が生じる具体的な恐れがある」とし、「居住場所に陥没や空洞が生じれば、家屋の倒壊等を招き,その生命、身体に対する具体的な危険が生じる恐れがあり、その被害は(当該原告の)日常生活を根底から覆すものといえる」とし、「東名立坑(東名ジャンクション部)を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事」について、「被保全権利(人格権に基づく妨害予防請求権としての差し止め請求権)及び保全の必要性」を認めて、本線部分の約60%にわたる工事の差し止めを命じたものでした。

 しかし仮処分決定は、トンネル直上や掘削コースのすぐ近くに居住している他の原告について「疎明がない」と片付け、大泉ジャンクション発進の本線トンネルやランプ・トンネルについて工事差し止めを認めませんでした。この結果、国と事業者は、大泉発進等の掘削工事を強行し続けています。「人格権に基づく妨害予防請求権としての差し止め請求権」は、なぜ他の原告について認められず、差止区間以外の掘削工事が認められるか。それらの地盤は、強固で安全なのか、陥没の危険はないのか。それこそ、その「疎明」はありません。
一方で、陥没地域のトンネル直上の約220mx16mの地域の約30戸に「住宅解体・更地化・地下47mまでの地盤補修工事」を押しつけ、このために、入間川の河川上約400メートルに地盤固化剤と排泥を圧送する6本のパイプを通すという大工事を始め、平穏な住宅街を工事現場に変え、住民の命と暮らしを破壊しつつあります。同様の惨事が差止区間以外でも起こる可能性があることは、2022年の大泉の事業地でのシールド機自損事故で明らかです。

 そもそもこの仮処分決定は、本訴の結論が出る前に、一時的に、司法が事業の「暴走」を防ぐため、問題の再検討を求めるという機能を期待されているものです。国と事業者の態度は,こうした状況を無視し、裁判所の決定について異議申し立てもせず、「差し止められていない場所では、何をしても構わない」といわんばかりの姿勢で終始し、2年4カ月を経過しました。これは、まさに「司法に対する侮辱」以外の何ものでもありません。
 「まだ、最高裁がある!」―映画「真昼の暗黒」で描かれたこの言葉は、「憲法の番人」として,行政の誤りを正し、日本国憲法の正義を実現する最高裁判所への期待を示したものです。
私たちは、ただ、行政の手続きに乗っただけの中途半端な仮処分決定を追認した最高裁の無責任な姿勢に抗議し、本訴で一層の運動を進めることを宣言します。
 大深度地下法は、憲法に決められた財産権制限に対する「補償」の規定を持たない憲法違反の法律です。その法律さえ守らず事故を起こし、多くの住民の人権を侵害している、東京外環道事業の認可・承認は無効であり、取り消すべきです。                                      
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2023年05月31日

「原告の陳述」東京外環道訴訟第19回口頭弁論(2023年5月24日)

東京外環道訴訟の第19回口頭弁論が、2023年5月24日東京地裁103号法廷で開かれ、原告Mさんが意見陳述を行いました。
 以下にその意見陳述をご紹介します。
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2023 年5月 24 日

拡大する外環陥没地域の人権侵害状況:第19 回口頭弁論・原告の訴え
 
原告のMです。何回目かの意見陳述ですが、私はきょう、裁判長に、東京外環トンネル工事によって発生した被害住民の中で起きている、健康被害、生活被害の実態を改めてご報告し、憲法違反の「大深度地下法」(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)と都市計画法に基づく、誤った認可、承認で、この事業が引き起こした人権侵害の状況をご報告したいと思います。

 住民に一切了解を得ることなく、進められてきたトンネル建設は、掘削が進む中で、住宅破損や騒音、振動、低周波音などを発生させ、地域住民を悩ましてきました。2020年10月の陥没・空洞出現はこれを一層明らかなものにしました。既に、2021年9月の第12回口頭弁論でもご報告したとおり、住民団体の陥没直後のアンケート調査でも、室内のひび割れ、ドアや床の傾き、コンクリートのひび割れ塀やタイルの変形など住宅被害が52軒、騒音、振動、低周波音など体感被害も102軒に達していました。

 しかし、この段階での陥没・空洞発見以来の被害を第1次被害とするなら、いま、私たちの周辺では、住民の仮移転・買い取り→住宅解体、更地化→地盤補修工事、その準備工事が始まるなかで、陥没地域周辺だけでない広範囲で、第2次被害とも言うべき事態が進み、一層大きく深刻なものになっています。

 ここでは、津波や地震のような天災と同じように、さまざまな心労、緊張が迫られたことから、精神を病む、あるいは持病が悪化し、「外環道トンネル事故関連死」とも言うべきことさえ発生していることを知っていただきたいと思います。住民たちは既に2年半にわたって、不安と緊張が続き、落ち着かない、宙ぶらりんの状況が続き、逃げ出すしか避けようがないのか、と悩む状況が続いています。

 ご想像頂きたいのですが、外出の緊張から離れてほっとできたり、コロナ在宅ワークを余儀なくされても、自宅の地下からの不思議な低周波音や振動、近所の住宅解体の騒音が続き、家の前は朝夕の測量作業、そして24時間の作業員の巡回がある状況は、緊張を解いてくれるときがありません。事実、個人事務所で仕事をしていたNPO職員は、騒音で避難する状況になりました。さらに、その家も、転居を考えなければならない交渉が続く状況は、自宅を落ち着く場所から、不安、心労を生む場所に変えています。そんななかで、味覚・嗅覚・聴覚の障害、精神の不安定状況が生まれ、不眠やうつ状態、軽いノイローゼに陥ったり、疲れやすくなり、体調管理に苦労している住民は、少なくありません。これは、憲法に保障されている、幸福追求権どころか、人格権、生活権が侵され、あるいは、財産権を侵されていることを意味しています。

 一人ひとり、その方々の人生がかかっている問題であり、こうした場でお話しすることもはばかられるのですが、私たちは、全く知らされないまま、自分の近くに地下トンネルが掘られ、陥没事故が起き、空洞が見つかり、いきなり一人ひとりの人生に、外環という怪物にどさどさと踏み込まれ、体調までを崩されてしまう。私がたまたま知った周辺の方々について、お話しできる範囲で、舌たらずですが、簡単にご報告しようと思います。

2020年10月、陥没のとき、「家にいたけど、こんな大きな穴が空くなんて気がつかなかったんだよ」と説明されていた90歳を越える「A」さんは、このお宅で何十年も、腕一本、文化の香り高い特殊な技術でがんばってきていた職人さんでした。この家に住めないことになり、体調を崩し、約半年後に亡くなられました。この街の象徴とも言える方で、まだまだお元気だっただけに、亡くなられたと聞き、ショックでした。

2022年11月、「仮移転」交渉の結果、引越しが決まった「B」さんは、直後に脳梗塞で入院されました。隣もその隣も、転居を迫られた結果です。

その近所の「C」さんは、愛犬が住めるマンションを苦労して探していましたが、ようやく見つけ、転居が決まりましたが、引越しの際、荷物が足に落ち、足の骨3本を折って、入院してしまいました。

 「D]さんのケースは、深刻です。騒音と振動で体調を崩されたお連れ合いが倒れ、施設に入られました。彼女が健康を損ねた原因が工事にあることを事業者は認めましたが、そのお見舞いをどのセクションが出すかで事業者が揉め、混乱させられました。そんな心労の中で、2022年暮れ、一人暮らしになったご自宅で突然具合が悪くなりました。何とか自分で救急電話し入院し、手術されたそうですが、大動脈解離であと少し遅かったら、命が危なかったと聞いています。
 
 ことし、2023年に入ってからも、次々問題が起きています。「E」さん一家は、父母の時代から住んでいる土地に、15年前、3世代住宅を建てました。しかし、前後に空洞が発見された場所のトンネル直上で、引越しせざるを得なくなりました。お孫さんの転校もあって忙しい引越しで、過労気味の中、腸閉塞を起こし入院しました。子どもたちと同様に育てた桜が美しく花をつけるとき、その家を壊し、今後は同じ家で生活することができなくなった悲しみは、いくらお金を積まれても、賠償できるものではありません。

 すぐそのお隣の「F]さんは、引越し騒ぎの中で、くも膜下出血で入院、亡くなられました。同居の息子さんが親御さんを救急車で運ぶ際に骨折された、とも聞いています。

一般に住民が「災害」に遭い、その対応や避難の際に、持病や事故で亡くなった場合、「災害関連死」と認定されれば死亡弔慰金が出されるなど、災害被害者を保護する制度があります。 政府は災害の場合、「避難中の車内での疲労による心疾患」や「ストレスによる身体異常」、「仮設住宅での孤独感で過度の飲酒をして起こした肝硬変」などを原因とした死亡を「関連死」として認めています。私たちの周辺で起きている、死亡や入院、持病の悪化や障害の発生は、まさに「外環陥没関連障害」ともいうべきものです。

 しかし、いま、国とNEXCOの対応は、あたかも、その原因が自分たちにあることさえ認識していないように振る舞っています。被害については、勝手に「線引き」し、狭い補償対象範囲や、住宅解体、更地化、地盤補修の範囲や考え方を示しています。

 陥没による地盤補修範囲から少し離れたアパート暮らしの「G」さんは、比較的若い方ですが、病弱で生活保護を受けていました。損傷したアパートは基礎から修復することになり、家主から退去通告を受け、故郷に帰らざるを得なくなりました。転居費用もままならぬ中、地元の市議の紹介でやっと転居先の自治体が保護を継続してくれることになり、転居して行かれました。アパートについては大家さんには補償があるようですが、店子への補償はなく、そうした住民への視野は全くないまま、交渉が進んだようです。

 陥没場所近くですが、直上から少し離れている地盤補修範囲外の「H」さんは、当初トンネル工事がほぼ自宅直下で行われていることも知らず、何が原因かわからないまま低周波音に悩まされていました。それが高じて匂いがわからなくなり、味覚も酸っぱい味しかわからない状態になりました。近隣の住宅が解体され、地下を固める地盤補修工事が近づいたため、「このまま居たら、殺されてしまう。この際、転居するしかない」と考え、事業者に自宅の買取りを掛け合いましたが、「直上ではないから買い取れない」と断られてしまいました。兄弟などの応援でようやく、緊急避難治療のために転居できました。

 直上ではない住民の中には、実際に自宅を担保にした融資を申し込んだところ「近隣が地盤補修されることになるなら、その間は財産価値を評価できない」と銀行に断られたケースや、事故への対応をめぐって、家族の間で論争になり、不和がじて家庭崩壊に至るケースもあります。不安の高まりから、高齢者特有の症状がひどくなった話も聞きます。

これらの被害は、被害者に何の落ち度もないのに、最も基本的な人権である、「安全な住宅に、安心して住み続ける権利」が現に侵され、「日常生活を根底から覆した」状況が生まれたという点で、原発や、地震の災害と同じです。しかも私たちの場合、原因は天災や民営事業ではなく、国が事業者として直接関与している事業の結果です。

 大深度地下の工事は、私たちが既に主張している通り、陥没や、地盤の隆起、沈下などが起きかねないことが「予測」されていたにも拘わらず、無許可、無認可の地域で、まさに最低の規制を決めた大深度地下法が決めたルールさえ守らないで「事故」を起こし、その結果、このような人権侵害が重なって生まれてきているのです。

 事業者や調布市は、個人情報保護を理由に、この健康被害の状況も、経済的な問題も一切公表せず隠蔽しています。しかし、工事と事故によるこのような被害について、調査報告をまとめて被害の全体像を公表し、救済の道を作るべきだと思います。
 
 ご存じのように私たちは、本事業によって起こされた、陥没事故、空洞の出現、酸欠空気の上昇に関連して、シールドマシン掘削の停止の仮処分を2020年5月27日、申請しました。東京地裁民事9部(目代真理裁判長)は、1年9カ月の審理の結果、2022年2月28日、住民の人権が侵されているとして、本線部分の約60%に当たる南側部分について、工事差し止めの決定をしました。私たちは、問題は一部でなく全線にあるとして、即時抗告をしましたが、東京高裁は2023年3月24日これを棄却したため、私たちは最高裁に特別抗告し、現在その判断を求めています。

 私は、この仮処分一審の決定で、実際に「居住場所において陥没や陥没が生じれば、家屋の倒壊等を招き、その生命、身体に対する具体的な危険が生じる恐れがあり、その被害は(私の)日常生活を根底から覆すものであると言える」と判断され、「人格権に基づく妨害予防請求権としての差止請求権」を認められました。しかし、事業者は、この決定を受けて、確かに言われたこの地域に至るシールドマシン2基は止めたものの、本線の北側の2基及びランプトンネルの掘削は続けています。そして、指摘された私に対する人権侵害の危険についても「お宅の地盤は安全です」と、裁判所と違う結論を伝えるだけで、陥没地域周辺のトンネル直上部の住宅解体、更地化、地盤補修を始めようとしています。

あえて申し上げますが、私たちが特別抗告に踏み切ったのは、本来、仮の決定であるはずの仮処分決定を受けた当事者は、本訴の判断を待つまでもなく、問題を再検討し、適切な措置を講ずるべきであるのに、被告の国とNEXCOによる事業者は、この決定に異議も申し立てないまま無視し、事業そのものを検討することなく、差し止めを命じられた部分以外の工事を着々と進めるという、司法の決定を侮辱するような姿勢を続けています。その結果、通常なら問題解決の第一歩となるはずの仮処分決定が出たのに、トンネル工事による被害は救済されないまま続き、新たな人権侵害状況を創っているのです。

いま、陥没が起きた調布市の東つつじヶ丘付近では、京王線と甲州街道の北側にできた工事資材基地から、陥没が起きた地域にまで約400メートルをパイプで繋いでコンクリート・スラリーを運び、陥没と空洞があった地域の直上部の住宅を撤去して、その地下に、このコンクリートを噴射して地盤改良するという工事に、住民の理解を得ることなく着手しました。住宅他の撤去は、交渉がまとまった家から無差別に進められており、この街一帯は工事現場の囲いと解体作業が続く、虫食いの街になりつつあります。
 さらに現在、急坂を下るため、かさ上げされている甲州街道には、大きな鉄管が通され、上下、左右に湾曲しながら、4本のパイプが地下の外環道とほぼ並列に、横桁を置いた入間川の上をうねって陥没現場近くに達しています。

 石油コンビナートの鉄管パイプを思わせるコンクリート・スラリー用の緑色のパイプ2本は、甲州街道の北側の工事基地で圧力を加えて流し込み、コースの間で少なくとも3カ所で高圧を加えて、最終の工事箇所までコンクリートを流し込むことになっています。土砂排出用の少し細い白色のパイプ4本は、逆の流れを創ります。しかし、少なくとも素人目では、むき出しのパイプは、川の上の横桁にビス留めもなく、無造作に載せてあり、住民からは、地震や何かの衝撃の際に外れて落ちないか、破裂しないかなど心配です。事業者はパイプの外形、内径の太さや、中を流れるスラリーの濃度、圧力の強さなど、詳細を説明しないまま、根拠法規も明らかにできないまま、巨大な工事を始めようとしています。

 川沿いに住む「I」さんは、騒音や振動にたまらず、一時退避を申し出、ホテルを斡旋されましたが、そこに長期間住めるはずもなく、悩んでいます。中継ヤードにはコンプレッサーなどが置かれる予定で稼働した場合、とても耐えられないのではないかと心配です。

 トンネル工事とその事故は、このように住民に具体的な経済的損害を与え、いま述べたような「生命、身体に対する侵害」が起きています。実際の被害は、私たち、調布市東つつじヶ丘、若葉町一帯だけで、事業者が認めている住宅補修区域の住宅は約1000戸ですが、工事の進行につれて、この数は増えていく危険をはらんでいます。しかも、いま行われている工事は地盤補修の準備工事です。本工事は350気圧もの圧力でコンクリート・スラリーを流し込むとされています。仮処分で差し止められなかった部分の工事も着々と進んでいます。調布と同様の事故が起きないか、と住民は心配しています。

改めて申し上げますが、この事態を引き起こしているのは、大深度地下法と都市計画法による承認・認可です。そして、大深度地下法は、憲法13条の人格権、25条の生活権を侵害し、この事業は、その法律の規制すら無視した工事で、人権侵害を起こしています。
 裁判所はいま起きている状況を率直に見ていただいて、ごく普通の国民が、生活侵害を受けているとき、憲法が国民を守ってくれていることを明らかにし、司法の信頼を取り戻すため、私たちの要求に応えた判決を下していただきたいと切望するものです。                                       以上

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